大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

横浜地方裁判所 昭和45年(ワ)977号 判決

主文

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一  原告ら

「被告らは各自、原告和田藤蔵、同和田計江のそれぞれに対し二五六八万五五二三円ならびに内金六〇〇万円に対する昭和四四年四月二七日から、内金一九六八万五五二三円に対する昭和四五年六月二二日から各支払済みに至るまで年五分の割合による金員を、原告和田弘、同和田研三のそれぞれに対し、一〇〇万円ならびにこれに対する昭和四四年四月二七日から、各支払済みに至るまで年五分の割合による金員をそれぞれ支払え。訴訟費用は、被告らの負担とする。この判決は仮に執行することができる。」との判決。

二  被告ら

主文と同旨の判決。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  事故

とき 昭和四四年四月二六日午前八時五分ころ

ところ 兵庫県川西市花屋敷町二丁目四番七号路上

加害車 マイクロバス 神戸五れ八九―一八

運転者 被告槇修

被害者 亡和田武夫

態様 武夫は株式会社ヤンマージーゼル花屋敷寮の南側通用門から右路上に出た瞬間、折から阪急電鉄宝塚線雲雀ケ丘花屋敷駅方面から川口能勢口駅方面へ向つて進行中の加害車に衝突され頭蓋底骨折により、同日午後二時頃死亡した。

2  責任

(一) 被告槇

同人は被告株式会社植捨組に雇われている自動車運転手であつて、事故当時、被告会社と万国博覧会会場の工事現場との間を毎日朝夕加害車を運転しながら従業員の運送に従事していた。本件事故現場はその途中に位置する歩車道の区別のない路上である。この道路に面し前記寮の門があり、亡武夫は寮の玄関から門に来て、門を通つてこの路上に出たとたんに事故にあつたのである。事故当時この門から寮生が出入りしていたし、そして車両が前記のように花屋敷駅方面から進行して来る場合には、車両の運転手は寮の玄関から門に至るこみちを通行している人の姿を望見し得た。されば、被告槇は本件進行にあたつては、門から出入りする者のあることを予想して前方を注視し、寮玄関から門へ向う人の有無を確認し、更に警笛を吹鳴して門付近を進行する車両のあることを知らせたうえ、自己において道路中央寄りを、しかも制限速度たる毎時三〇キロメートルの範囲内で徐行し、事故を未然に防止すべき注意義務があつたのである。ところが同被告は前方を注視せず、警笛も不吹鳴のまま、減速はおろか時速約五〇キロメートルで道路中央寄りでない個所、即ち門から五〇ないし八〇センチメートルの間隔をおいた個所を走行した。同被告はかような過失により、本件事故を惹起した。よつて同被告には民法七〇九条による責任がある。

(二) 被告会社

被告会社は、本件事故当時加害車を所有してこれを自己のため運行の用に供していた。それゆえに自動車損害賠償保障法三条による責任がある。又本件事故は被告槇が被告会社の業務執行中に前記過失により惹起したのであるから、被告会社は民法七一五条一項による責任がある。

(三) 被告阪上貞雄、同坂上秀雄、被告貞雄は、被告会社の代表取締役、同秀雄は専務取締役であるが、被告会社は従業員二〇数名の小規模な同族会社であるので、この両名は被告会社に代つて被告槇を監督していた。であるからこの両名は民法七一五条二項による責任がある。

3  損害

(一) 武夫の逸失利益 三九一六万三九一一円

武夫は、昭和一八年一〇月二五日生れ、事故当時二五才六ケ月の男子で、上智大学卒業後株式会社ヤンマージーゼルに勤務していたが、本件事故に遭遇しなければ満六三才に達するまでの三八年間、右勤務を続け、左記の給与と退職金の支給を受けられたはずであつた。

(1) 給与 三七〇一万二六六〇円

武夫の収入算定については、株式会社ヤンマージーゼルのモデル賃金表、嘱託規定に基くこととし、その生活費については、労働大臣官房調査部作成の「昭和四〇年度賃金構造基本統計調査報告」により、生活消費単位指数を、武夫本人を一・〇、配偶者〇・九、満一四才以上の子を〇・六、満一一才以上満一四才未満の子〇・五、満五才以上満一一才未満の子〇・四、満五才未満の子〇・三とし、武夫は、満二五才まで独身で収入の八割を生活費として費消し、満二六才から満二九才までの間は配偶者はあるが子供はないものとし、その後は配偶者および扶養すべき子供が二人あるものとして(子供は満一八才まで扶養するものとする)収入から武夫の生活費率を控除することとし、同人の逸失利益を算出すると、満二五才から定年の満五五才まででは別表一のとおり三二一二万五六三九円となり、定年後から満六〇才までの嘱託の間においては別表二のとおり五七九万〇四〇〇円となり、嘱託終了後満六三才までは、定年時の月収の半分の収入を得られるはずであるから別表三のとおり一六四万三三五五円となる。

そこで我国のサラリーマンの給与形態が月給制であることに鑑み、満二五才から満六〇才(四二〇ケ月間)までの月平均の純収益を求めると一五万〇二七六円二八銭となり、その後満六三才までの三六ケ月間の一ケ月平均の純益は四万五六四八円となるから、これらを死亡時に一時に請求するものとして、月毎のホフマン式計算方法により年五分の割合による中間利息を控除すると、前者は三六四三万六九三九円、後者は五七万五七二一円となる。

(2) 退職金 二一五万一二五一円

株式会社ヤンマージーゼルの退職金規定によると、武夫は、満五五才の定年時に五三七万八一二九円の退職金の支払を受けるはずであつたから、単式ホフマン式計算方法により年五分の割合による中間利息を控除して死亡時における現価を求めると、二一五万一二五一円となる。

(二) 葬儀関係費用

原告和田藤蔵、同和田計江は、武夫の荷物引取旅費、大阪での葬儀参列旅費、上智大学におけるミサ施行費用、通夜、葬儀、初七日、一周忌の祭葬費、墓碑建立費、仏壇購入費として、各六七万七六一二円の支出を余儀なくされた。

(三) 慰藉料

武夫は、上智大学卒業後株式会社ヤンマージーゼルに勤務していた、事故当時二五才の前途ある人望の厚い健康な好青年であつて、会社の上司からも将来を嘱望されており、しかも結婚を目前に控えていたのである。然るに、かような長男を一瞬の事故により失つた武夫の父母たる原告藤蔵、同計江の精神的苦痛は筆舌に尽し難いものがある。又、原告弘、同研三は、兄武夫を人生の先達として敬愛し、良き相談相手としていた。その兄を失つた悲しみは永久に消え去ることはない。かような原告らの精神的苦痛に対する慰藉料は、原告藤蔵、同計江に対して各三〇〇万円、原告弘、同研三に対して各一〇〇万円が相当である。

なお原告弘、同研三は民法七一一条に基き右慰藉料の請求をする。

(四) 弁護士費用

原告藤蔵、同計江は、本訴の提起、追行を原告訴訟代理人中嶋弁護士に依頼し、手数料として各二五万円を支払い、成功報酬として四八五万一九一三円を支払うことを約した。

4  相続ならびに損害の填補

原告藤蔵、同計江は、亡武夫の父母であるから、同人の逸失利益三九一六万三九一一円の損害賠償請求権を、法定の相続分に応じて各二分の一の一九五八万一九五五円宛相続した。

原告らは、被告らから二八四万〇八〇一円を受領したので、原告藤蔵、同計江の損害に各一四二万〇四〇一円宛充当した。

5  結論

よつて、原告藤蔵、同計江はそれぞれ、被告らに対し各自二五六八万五五二三円ならびに内金六〇〇万円に対する本件事故の翌日たる昭和四四年四月二七日から、その余の金員については本件訴状送達の日の翌日たる昭和四五年六月二二日から各支払済みに至るまで、民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求め、原告弘、同研三はそれぞれ、被告らに対し各自一〇〇万円ならびにこれに対する前記昭和四四年四月二七日から支払済みに至るまで、民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1項の事実は認める。

2  同2項(一)のうち、被告槇が被告会社の運転手であること、徐行しなかつたこと、警笛を吹鳴しなかつたことを認め、その余の事実は否認。

同項(二)のうち、被告槇の過失は否認し、その余の事実は認める。

同項(三)のうち、被告貞雄、同秀雄がそれぞれ被告会社の代表取締役、専務取締役である事実を認め、その余は否認。

3  同3項(一)のうち、亡武夫が事故当時株式会社ヤンマージーゼルの社員であつた事実を認め、その余は不知。

同項(二)の事実は不知。

同項(三)の事実は勤務会社の点を除き否認。勤務会社の点は認める。

同項(四)のうち、中嶋弁護士に本件訴訟の提起・追行を委任した事実を認め、その余は不知。

4  同4項のうち、原告藤蔵、同計江と亡武夫の身分関係を認め、その余は否認。

三  抗弁

1  免責

寮の門は、直接道路に面する間口一・二五メートルの非常用門であつて、平素使用されておらず、たまたま本件事故当時使用されていたにすぎない。そして、寮の玄関からこの門まで通じるこみちは三〇度の下り勾配になつている。それゆえに、本件事故当時、右の事情を知らないで、門は平素のとおり使用されず、門からの人の出入りはないものと思いこみ、事故防止のため警笛吹鳴や徐行の処置が必要でないと誤信して走行する自動車運転手がないとも限らない状況であつた。また、車両が前記のように花屋敷駅方面から進行して来る場合前記こみちにいる人の姿を望見することは不可能である。かような次第で、このこみちを通り、門から外の道路に出ようとする者は右のように誤信して警笛吹鳴や減速をしない車両との衝突事故を避けるため、門から外の道路に出たとたんに道路の左右の安全を確認すべき義務があるものと言うべきである。武夫は前記花屋敷駅発午前八時八分の電車に乗車する目的のもとに、寮から同駅まで徒歩五分を要するにもかかわらず、寮玄関を午前八時五分に出発した。そして、前記こみちをかけ足で降り、門から外の道路に飛び出したが飛び出したとたん、道路の左右の安全を確認しなかつた。この点に武夫の過失が存する。折から被告槇は道路中央寄りを毎時三五キロメートルの速度で花屋敷駅方面から進行してきた。同被告は、門が平素使用されていないことも、本件事故当時例外的に使用されていたことも、いずれも知らず、門から出る人のあることを予想しなかつたし、かつ予想しなかつたのは無理もないことであつた。同被告が警笛吹鳴や徐行をしなかつたことはとがめられるべきことではない。このようにして、同被告は、自車前方二・三メートルの地点に武夫の姿を発見し、危険を感じて急制動をかけたが及ばず、同人に自車を接触させた。

右の次第で同被告には過失がなく、本件事故は、武夫の一方的過失に起因する。そして加害車には構造上の欠陥も機能の障害もなかつた。よつて、被告会社は、自賠法三条の責任を免れる。

2  過失相殺

仮に、被告槇に過失があるとしても本件事故発生については、前項記載のとおり武夫にも過失があるから、賠償額算定に当り、これを斟酌すべきである。

3  損害の填補

被告らは、原告藤蔵、同計江に対し、葬儀費用一五万九一九九円、治療費四万三五六六円、看護料一七七〇円を支払つた。

四  抗弁に対する認否

抗弁1、2項は否認。

第三証拠 〔略〕

理由

一  請求原因1項の事実は、当事者間に争いがない。

二  責任

1  先ず、被告槇の過失の点と、あわせて亡武夫の過失の点につき判断する。

(1)  本件事故現場付近の状況

〔証拠略〕を綜合すれば以下の事実が認められる。即ち本件事故現場は、前掲花屋敷駅東方約二〇〇メートルの宝塚線軌道の北側に同軌道に沿つて設けられた、東西に通ずる幅員五・四五メートルの、歩車道の区別のない、平坦なアスフアルト舗装道路上で、この道路の北側にあるヤンマージーゼル花屋敷寮非常用門から道路上に出た地点である。付近は住宅街になつていて、車の通行量は普通程度であり、速度制限の規制はない。この舗装道路の北側は前記門から西へ一六・五メートルの間は寮のブロツク塀(高さ一・八八メートル)があり、更に西へ一一・七メートルにわたつて高さ一・四メートルの金網塀が続き、その内側には竹木が植えられており、これより西は竹藪になつている。

そして道路は、前記門より西方四七メートルの地点までは直線で、これより西へはゆるやかな左カーブとなり、又門より東方の状況は、門から三四・二メートル先にある南北に通ずる道路との丁字型交差点まではやはり直線となつている。そして事故現場付近には、右門を除いては前記舗装道路へ出入りするところはなく、右丁字型交差点から南北に通ずる道路を北へ一〇メートル程いつた道路西側に寮の正門がある。

次に、門は、寮の玄関から約一五度の下り坂に設けられた飛び石状の石段を降り切つた地点にあつて、直接道路に面しており、間口は一・二五メートルで非常用に使用され、平素は使用されていない。というのは、門から道路に出るにも、道路から門にはいるにも、いずれも道路の車両交通上危険であるからである。ところが、正門の補修工事のため本件事故の一週間程前から右の門が臨時に使用され始め、寮生一〇〇名程のうち大部分の者が外出や帰寮の際これを使用していた。さて、花屋敷駅方面から本件事故現場へ向つて東進する車両から、門の存在は、その直前に至るまで発見し得ない。

ところで、寮から前記花屋敷駅までは徒歩で約三分ないし五分の所要時間である。なお、本件事故前日は雨天であつたが、事故当時は、既に雨もあがつており、路面は乾燥していた。右認定に反する証人西村稔の供述部分は措信し難く、他に前記認定を左右するに足りる証拠はない。

(2)  見通し状況

〔証拠略〕を綜合すると、次の事実を認め得る。前記花屋敷駅方面から本件事故現場へ向い、門から四七メートル以西のゆるやかな右カーブの道路を走行するとき、寮の庭が正面に見え、したがつて、庭内にある寮の玄関から門へ通じる前掲こみちにいる人の姿を発見することは不可能ではないけれども、この庭は寮に関係あるいは関心ある者のほかには、格別眼にとまるような特殊な存在として映るものでないから右人の姿もむしろ発見されないのが通常であり、カーブ通過後門に接近するにつれ庭は左前方に見えるが前掲こみちにいる人の姿の発見は、庭内の竹木あるいは前記ブロツク塀に妨げられ、尚一層困難となり、門を通過し終るまでの間、結局その確認は不可能に近い。そして門から出ようとしてその出入口に立つている人の姿は、車両が門の手前約五・六メートルに来てはじめて発見できる。他方寮玄関から前掲こみちを進んで門に来る者は、玄関から門の手前約七・五メートルの地点までは前記花屋敷駅方面から本件事故現場へ進行してくる車両を確認し得るが、門に近ずけば近ずく程その車両は見えなくなり、遂にわずかに接近音が聞えて来るに過ぎない。右認定を左右するに足りる証拠はない。

(3)  衝突の態様

被告槇が、加害車を運転して前記花屋敷駅方面から本件事故現場へ向つて走行中本件門の前の道路上で事故を起したことは当事者間に争いがない。〔証拠略〕によれば事故の時点における同被告の時速は約四〇キロメートルであつたこと、同被告は門から道路上約一〇メートル手前右側にダンプカーが停止しているのを発見し、これを避けるため寮のブロツク塀寄りを、すなわち、加害車の左側部が道路左端から約八〇センチメートル程離れた位置(加害車の右側車輪によるスリツプ痕の位置が道路右端より二・九メートルの地点に印されているので、道路幅員約五・四五メートル、加害車の車体幅一・六九メートルであることから推認される。)を走行していたところ、たまたま武夫が午前八時四分ころ寮の玄関を出、前記花屋敷駅を午前八時八分に発車する電車に乗るべく、約一五度の下り勾配になつている前記こみちを小走りでかけ降り、門から一・二歩、距離にして八〇ないし一〇〇センチメートル程飛び出し、道路の左右の安全を確認しなかつたとたんに、被告槇は飛び出した武夫を前方二・三メートルの位置に発見し、急制動をかける間もなく加害車の前部車体を武夫に接触させた事実が認められる。右認定に反する〔証拠略〕は信用できないし、その他右認定を左右するに足りる証拠もない。

(4)  また被告槇が、事故当時前記門が使用されていたことを知つていたか否かの点につき争いがあるが、〔証拠略〕によれば、本件門は平素使用されておらず事故の約一週間程前から臨時に使用され始めたにすぎず、被告槇は事故の約一年前から毎日朝夕事故現場付近を車で通つていたが、寮生は寮正門から出入りするのみで、本件門からは出入りしていないことを知つていたこと、本件門が使用され始めた後もこの門から出入りする寮生を見たことが無く本件門が使用されていることを知らなかつたこと、以上の事実が認められ、右認定に牴触する〔証拠略〕は、本件門の使用状況について格別の関心を有する者を前提とする一見解を述べたものであつて、被告槇のような寮外者でしかも本件門の使用状況につき特別の関心を払うべきことを期待し得ない者に対しては、右見解は直ちに採用することはできないし、他に前記認定を左右するに足りる証拠もない。

(5)  被告槇の過失についての判断

以上の認定事実によれば、被告槇がその加害車運転席から、寮の玄関と本件門とを結ぶこみちにいる人の姿を発見することは不可能に近く、又、門から出ようとして、その出入口にいる人の姿を門の約五・六メートル手前で始めて発見し得るのであるから、門から飛び出した武夫を被告槇が加害車の二・三メートル前方に発見したことにつき、同被告に前方不注視の過失はないものといわざるを得ない。また現場を徐行しなかつたことならびに警笛不吹鳴の事実は被告槇の認めるところである。けれども、本件事故現場は、前記認定のとおり住宅街にあり、しかも道路南側は前掲宝塚線の軌道で、北側は本件門以外には人の出入りするところはなく、人や車が前方を横切つたり、道路上に飛び出したりすることを予想し得べき場所ではないから、かような場所にあつては、至近距離で飛び出してくる人を予想し、これとの接触を回避するため前もつて徐行する義務はないものと言わなければならない。よつて、被告槇が徐行しなかつたことに過失はない。次に又幅員五・四五メートルの道路で車体幅一・六九メートルの加害車左側部が本件門から約八〇センチメートル離れた位置を走行していたことは左側通行のたてまえから何等非難されるべきところではないし、右約八〇センチメートルの距離は門の外へ出る者があつた場合、その者との接触が回避できる程度に離れているものというべきである。従つて走行位置に関し被告槇に過失はない。更に同被告の警笛不吹鳴については前記認定のごとき本件事故現場の状況からすれば、そして殊に同被告が門が臨時に使用されていることを知らなかつた事実に徴し同被告が警笛を吹鳴しなかつたことをもつて、同被告に過失があつたものとはいえない。

結局本件事故は、武夫が門から出たとたんに道路の左右の安全を確認せず、そのまま飛び出した過失によつて惹起されたものであつて、被告槇には過失はない。即ち被告には民法七〇九条に基づく責任はない。

2  被告会社

同被告会社が本件事故当時加害車を所有してこれを自己のため運行の用に供していたことは、当事者間に争いがない。

ところで、1認定のとおり加害車運転者被告槇に事故発生につき過失はなく、本件事故は武夫の一方的過失によつて惹起されたものであり、しかも本件事故の態様からすれば、加害車の構造上の欠陥や機能上の障害ならびに被告会社が加害車の運行に関し注意を怠らなかつた事実の有無は、本件事故発生と因果関係がないことが明らかであるから、右事実の存否を判断するまでもなく、被告会社は、自動車損害賠償保障法三条但し書により同条本文の責任を免れることとなる。又、被告槇の過失を前提とする民法七一五条一項に基づく被告会社の責任が否定されることは言うをまたない。

3  被告貞雄、同秀雄

右両被告に対する民法七一五条二項に基づく責任も、被告槇の過失を前提とするものであるところ、前述のとおり同被告に過失が認められないのであるから、その余の事実を判断するまでもなく、被告両名に本件事故による損害を賠償する責任はない。

三  結論

よつて、その余の主張に対し判断をするまでもなく、本訴請求はいずれも理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条に従つて、主文のとおり判決する。

(裁判官 高橋雄一 石藤太郎 大野市太郎)

別表一

〈省略〉

別表二

〈省略〉

別表三

〈省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例